第4話 作戦会議

「なあ、しずく。ちょっと話いいか?」

「なんだよ。改まって。」

なんだか今日の朝から瀧の様子がおかしい。

「今日授業中にさ、ある程度考えてみたんだ。これからのこと。ざっくりだけどな。」

おい、また授業中かよ。と思いながら、未来予想話を聞いた。

「俺は、3年でギターの基礎を作る。んで、しずくは、3年で、ボーカルの基礎と5曲の歌詞を作る。そこがスタートラインだ。」

「ほうほう。瀧にしてはいいじゃんか。3年はちょうどいいかもね。あっ、ところで瀧ギター買ったのか?」

自信満々の顔で瀧が一言。

「もちろん!今日買いに行く!」

「今日かい。まあ、わかってたけども」

お!瀧にしては!と思ったけど、やっぱ瀧は瀧だったな。と思った。

「なあ、しずく。それでさ、今日悩んでたのはさ、俺音楽のことなんも知らないじゃん?
だからさ、どうしようかなと思ってさ。」

「あー、そういえばそうだな。瀧は中学までサッカーのことしか頭になかったもんな。うーん、どうしようか。俺も考えとくわ。」

「おう。ありがとう。」

僕と瀧は、同じサッカーチームだった。

瀧は、エースでキャプテン。そして僕は、縁の下の力持ち的な位置にいた。

(よく、中学でもこんな感じで作戦会議したなあ。)


* * *



「なあ、俺授業中に考えたんだけどさ、このメニューいらないと思うんだよね。それより、こっちのこれとか、このプロチームのこれとか取り入れたほうがいいと思うんだけど、どう思う?」

「うーん、僕はこのプロチームのやつは、したのやつらがついてこれないから、やるなら、上のやつだけでやればいいと思う。下のやつらは、無くすメニューやればいいんじゃね?」

「おー!さすがは千里眼のしずく!あー、確かに。確かにそれだな。あざシックスメーン。」

「だから、それやめろって。3年やって、瀧しか流行ってないじゃんか。」

「いやー、みんなが、俺よりお笑い力がないだけだよ。まあ、俺がスゴすぎるからさ、悪いな。」

「いや。それは無いから大丈夫だ。」

「おいー、そんな事言うなよ〜。」


* * *

たしか、こんな感じだった。

僕たちの代は、瀧が暴れまくって、ジャイアントキリング祭りで、全国ベスト2にまで登りつめた。
そこで、僕も瀧もサッカー熱が一気に冷めて、瀧は、ドッチボール愛好会を作り上げ、僕はそれに入らされた。部長として。
しかも、ドッチボール愛好会は、部員数50人を超えるめっちゃでかいサボり部活になった。なんでやねん。


「おーい!おーい!!!しずく!!」

どうやら、僕は地蔵になっていたようだ。

「あ、ごめん。んで、なんだっけ?」

「んもー!放課後空いてるか?って話!」

「あ、空いてる空いてる。一緒に楽器屋に行くって?」

「そうそう!いこいこ!」

「行くかあ〜、」

「っしゃー!そう来なくちゃな!」

僕は、瀧とずっと一緒じゃなきゃ、
この先、精一杯幸せで楽しい未来は訪れないだろうな。ずっと見てたい。瀧の幸せそうなこの顔を。

〜今日のポエム〜
もしも君がこの先僕の隣から離れたとしたら、暗闇の中ただそこに立ち尽くし、思い出をひとつひとつ吐く息と一緒に空気に消し去る。後悔して、いくら息を吸っても、欠片のひとつも残らない。残ってるのは、君の幸せそうなその笑顔だけ

3日目 興奮

家に帰り、眠れないままベッドの中にいた。

(あー、明日も学校なのになあ、何時だろう)

目をつぶると、思い出すあの一言。

「じゃあ、俺。楽器屋でギター買ってくるわ。お前が好きなバンド超えるくらいでかいバンドになろうぜ」

まあ、冗談か。冗談だよな。

変な期待持ちすぎだよな。寝よ寝よ、もう2時過ぎくらいか。あーあ、明日も早いのになあ、

時計をみた。


「え、うそ。またまた〜、そんなわけない。短い針4のとこにあるんだけど。そんなに起きてるわけない。」


もう一度みた。

「えー!!!!!!よっっっ4時??!!
やべ!寝なきゃ寝なきゃ!」


* * *



「しずく起きなさい!行く時間よ!」

お母さんの声だ。もう起きる時間か、

「うーん、んー、ねむい。起きるかあ〜!」

僕の癖。起きるときに、「起きるかあ〜!」

と言ってしまう。つい出てしまう。

仕方ないことだ。つい出てしまうものなのだから。

「よし、忘れ物は〜、な〜。
あ!あるわ!あっぶねえ〜。ポエムノート忘れるところだった。」

よし、いってきまーす!



* * *


学校に着き、いつもの左角前の席に座って、考え事をしていた。

うーん、今日はどんなポエムを書こうか。

やっぱ毎日ポエム書くってすげえな。

なんかこう。自分なりっていうのがなあ、うーん、

そんなことを考えてると、瀧がきた。

「おは!未来のスーパーボーカルさん!」

「おはよ。スーパーの方になったのね、未来のハイパーギタリストさん」

「おー!なにそれ!かっこいいじゃないか!ハイパーギタリスト!おー!いいネーミングセンス!」

「ああ、そうかい。そりゃどうも。」

僕は川の流れのような受け流しをした。

と、次の瞬間。しまった。と思った。

遅かった。

「あ!それにしたんだね!ってカエルかよ、なんでカエルなの?」

瀧にポエムノートを見られてしまった。

今年1番のショックだ。

「別になんでもいいだろ?俺が気に入ったんだ。ちっちゃいことは気にするな。」

「それワカチコワカチコ!!」

瀧はこういうことをするからモテないんだよなあ、って思う。

「ねえ、しずく見せてよ〜!そのポエムノート!いいだろ?なあ、いいだろ?」

瀧に見せたら、絶対クラス中に広まる。と思った。
それすなわち、ORE NO OWARIだ。

それだけは避けなければ。

「これはまじで嫌だ。見たらはなさんにチクるからな。人のもの勝手に見る変態だって」

(ふん!どうだ。これで見れまい。俺の勝ちだ。久しぶりにやってやった。)

すると瀧が

「別にいいよ、チクってみろよ?」

ちょっと予想外だった。

(意外と食い下がらないなあ、まあでも俺の勝利は確信している。次で終わりさ!)

「いいんだな?チクっても?後悔はしないんだな?」

すると瀧は、なにも恐れない。普通の顔で、

「言ってみろよ?言えるのか、はなに!
チクられたってポエムノート見るよりは軽いさ」

(あ、まずい。見られるやつだ)

俺は終わりを確信した。大逆転敗北だ。

オセロで角ひとつとって有利になったと思いきや、最後角3つ取られて負けた気分だ。

「へへ〜!買ったと思ったか!まだまだだな!しずく!」

そう言って瀧は僕のポエムノートをみた。

終わった。終わったんだ。高校生活は。

たった8日で。終わった、、

と思った。

しかし、瀧が放った次の一言は予想外だった。

「おい、いいじゃんか。才能あるぞ。」

「っえ?」

思わず声が裏返ってしまった。

「昨日のポエムなかなかいいよ!」

瀧は子供のようにはしゃいで、そう言った。

僕にも才能はあったんだ。

瀧が気づかせてくれた。

瀧にはバレないように、目からしずくを一滴こぼした。

〜今日のポエム〜
才能は、たまたま道路に1000円落ちてた。みたいな感覚でわかるもの。
君にしかないものが必ずあるんだよ。
才能が欲しいとか言わなくてもいい。
もう君は持ってる。唯一無二のものを。

第2話 7日目の決意

学校が終わり、家に帰る前に文房具屋に寄ってポエムノートを買おうと思った。

うーん、こうやって見ると、ノートにも色々あるなあ、中のデザインも少しずつ違う。

どうせなら、自分のお気に入りが欲しいなあ、

「お!しずくじゃん!」

「お、瀧か。悪いな。昼休みドッチボール行けなくて、その後音源聞いてたら、夢中になっちゃっててさ、行けなかったわ。」
(まあ、9割9分嘘だけども、、)

滝が疑いの眼差しを向けた

「ふーん、どうだかな。はなちゃんにかっこいい姿見せれないから、来なかったのかと思ったけどな。」

「は!そんなことないわ。僕は眼中にないしね、はなさんなんて。そんなこと言う瀧がはなさんのこと好きなんだろ?」

瀧が照れた。それはわかり易すぎる照れだった

「んなわけねえだろ。お、俺がはなのこと好きなわけないだろ。ど、ど、どこにそんな証拠あんんだよ。」

瀧の口調が、証拠のかたまりすぎて吹き出してしまった

「おい!何笑ってんだよ!ったくもう、そういうジョークはよせよな。」

男梅くらい瀧の顔は真っ赤っかだった。

ふと、僕は気になった。

「なあ、瀧。文房具屋に何しに来たの?人生で初めて入ったろ?」

「あ?初めてじゃねえわ。4回目だわ、しずくがいたから、来ただけだよ。お前こそ何やってんだよ。」

「僕はノートを買いに来ただけだよ。」

瀧は驚いた顔で言った。

「え!もうノート使い切ったのか!まだ始まって7日だぞ。東大目指してんのか?」

「なんでだよ。ちょっと日記的なノートを買いに来たんだ。」

今度は瀧がとぼけた顔になった。喜怒哀楽が忙しいやつだなと思った。

「日記的なってなんだ?ポエムでも書くのか?」

さすが小学校からの同級生だな。と思った。

瀧になら打ち明けてもいいか、

「あー、そうだ。ポエムを書くんだ。」

すると瀧が今度は困った顔をした。

「お、おう。そーなのか。」

そして次に瀧はなにか思いついたというような顔でこう言った。

その何気ない言葉で僕の人生が大きく変わった。



* * *





「じゃあ、俺。楽器屋でギター買ってくるわ。お前が好きなバンド超えるくらいでかいバンドになろうぜ」
今度は僕が困った顔と驚いた顔をした。

「え、え、は、え、別にそういう訳じゃないんだけど、、」

瀧は太陽みたいな笑顔で

「まあ、歌詞出来たら見せてくれよ!未来のスーパーハイパーボーカル!またな!」

どっちだよって思いながら、勢いに押された僕は、

「お、おう。またな。」

それしか言えなかった。

(歌手かあ、アーティストかあ。)

その後も悩んでようやく手に入れた手帳は、
表紙が葉っぱで雨宿りをしているカエルのデザインをしてる手帳にした。

帰り道。ずっと一曲をリピートで聞いた。


『7日目の決意』


〜今日のポエム〜
なんの希望もなかった人生でも
生きる希望が生まれるんだな
明日死んでもいいと思ってた人生が
突然死にたくない人生になる
その逆もあるんだろうな。
1度きり。そう。すべて1度きり

ポエマーらいふ 第1話 はじまり

 

「俺は学生のとき、独りだった。だから、毎日ポエムを書いてた。」

好きな歌手のライブMCを聞いていた。

ポエム。

なんかそれは、ちょっとダサい。

というかそういうのを書いている人って浮いてるイメージだなあ。

国語の比喩表現とはまた違うような、くさいというか、なんというか、、

 

「おい、また音楽聞いてんのか?しずく

昼休みくらい遊ぼうぜ、みんなと。高校のスタートダッシュ遅れるぞ。」

小学生からの同級生の緑川瀧が声をかけてきた。

「ったくうるせえなあ、せっかくライブ音源聞いてたんだから、邪魔するなよな。」

「また聞いてたのかよ!好きだなあ、そんなことよりさ、ドッチボールやりに行こうぜ」

「僕はいいよ。どうせすぐ当たるよ。」

「んもー!なんでだよー!あ、もしかして、お前、はなのこと好きなのか?だから行かないのか?それはしゃあないなあ!」

高橋 英(たかはし はな)クラスの女子の名前だ。

顔は結構可愛くて、クラスの男子から人気だ。

まあ、俺は、タイプじゃない。

「あ?んなわけねえだろ?俺はそういうの興味無い。小学校から一緒にいるからわかんだろ」

「いやー、でももう高校生だぜ?そういうの興味もてよー。あっ、もうこんな時間かよ!おい!あとからこいよ!」

「おせーぞ!瀧!体育館使われるぞ!」

「わりい!今行く!

おい、しずく。あとから来いよ。独りになっちまうぞ」

「おう、わかったよ」

僕は瀧にそう返答したけど、行かない。

ポエムを書こうと思ったから。

それが僕のポエマーらいふのはじまりだった。

 

〜今日のポエム〜

好きっていう気持ちはまるで曇り空

伝えたくても伝えられないもどかしさ

いつかこの気持ちは晴れるかな